【住民票を残したまま海外で働ける?】海外転出届の4つの論点|海外13年の私が年末に抜いた理由
住民税・所得税・国民年金・健康保険の扱いを、公的情報と体験で整理
海外転職が決まると、住民票をどうするかという問題が出てきます

私はアメリカで5年、中国で約8年、合わせて13年を海外で働きました。
上海の会社へ移るときは、年末に住民票を抜き、新年から現地で働くように日程を組みました。
一方、現地で出会った日本人には、住民票をそのまま残している人も少なくありませんでした。
会社から派遣される海外赴任でも、自分で仕事を見つける現地採用でも、迷いやすいテーマです。
この記事では、住民票を抜く・残すで何が変わるのかを、住民税・所得税・国民年金・健康保険の4つの論点で整理します。
私の体験は10年以上前のもので、記憶があいまいな部分もあります。
そのため、私自身の話は「当時の私のケース」として書き、制度の説明は2026年10月時点の公的機関の情報をもとにしています。
個別の判断は、お住まいの市区町村・年金事務所・税務署で確認することをおすすめします。
1年以上海外に住むなら、海外転出届は出すのが基本

目黒区は「国外に1年以上引越しをされるときは、転出の届出が必要です」と案内しています。
海外転出届は法律上の「転出届」にあたり、損得だけで選べるものではありません。
例えば千葉市の案内によると、正当な理由なく転出などの届出をしない場合は、5万円以下の過料の対象になり得るとされています(科すかどうかは簡易裁判所が判断します)。
それでも住民票を残す人が多いのは、「何かあったときに安心」という点だけが意識され、その間に続く負担や、使えない制度があることが知られていないためだと私は考えています。
海外転出で住民票はどうなる?4つの論点
海外転出届を出すと、住民票は「除票」という扱いになり、日本の住所がない状態になります。
抜いた場合と残した場合の違いを表にまとめました。
| 論点 | 抜く(海外転出届を出す) | 残す(※1年以上なら本来は届出が必要) |
|---|---|---|
| ① 住民税 | 日本に住所がない状態で1月1日を迎え、1年以上国外に住めば、その年度からは課税されない。それまでの年度の分は納める | 1月1日に住所があれば課税される可能性がある |
| ② 所得税 | 住民票ではなく「住所」と「1年以上の予定」で判定される。出国時に精算が必要 | 判定方法は同じ。住民票の有無だけでは決まらない |
| ③ 国民年金 | 厚生年金に入っていなければ「任意加入で払い続ける」か「資格喪失」かを選べる | 国内にいる扱いが続きやすい(詳しくは年金事務所で確認) |
| ④ 健康保険(国保) | 資格を失い、日本の国保は使えなくなる | 海外にいる間も保険料がかかる。居住実態が海外なら海外療養費の対象外とする自治体もある |
論点① 住民税:1月1日にどこに住所があるかで決まる
住民税は、その年の1月1日に住所がある市区町村が、前の年1年間の所得に対して課税する仕組みです。
世田谷区は、1月1日をまたいで1年以上国外に住む場合は非居住者として扱われ、住民税は課税されないと案内しています。
金額で見ると、この違いは小さくありません。
住民税の所得割の標準税率は合計10%(市町村民税6%と道府県民税4%。政令指定都市は8%と2%)です。
たとえば住民税の課税所得が500万円の場合、所得割だけで約50万円になります(税額控除を差し引く前の目安)。
ただし、出国すれば住民税がすべてなくなるわけではありません。
出国した年の1月1日に日本に住所があった分(前の年の所得分)は納める必要があります。
仙台市の例では、納税通知書が届く6月中旬より前に出国する人は「納税管理人」を決めるか予納、通知書が届いた後に出国する人は、全額を納めていなければ納税管理人が必要と案内されています。
納税管理人とは、本人に代わって税金の書類を受け取ったり納付したりする人のことで、家族などに依頼できます。
私は当時、払込用紙を使ってコンビニで支払った記憶があります。
入社が年明け前後なら、出国日を意識しておく
私は1月1日の仕組みを知っていたので、新年から現地で働く前提で準備を進め、年末に日本での仕事を終えて住民票を抜きました。
大切なのは、税金のために転職の時期をずらすことではありません。
内定から入社までの日程が年をまたぐときに、出国日と転出届の日付を意識しておくことです。
- 10月ごろに求人を見つけ、入社が翌年の1月や2月になりそうな場合:
年内に出国して転出届を出せる日程か確認する - 入社が11月や12月に決まっている場合:
大きな調整は必要ないと考えられる
私の経験では、日本の会社で退職を相談してから辞めるまで、引き継ぎと有給休暇の消化を含めて3か月ほどかかりました。
内定が出た時点で、退職日・出国日・入社日を一つの日程表に並べておくと、1月1日をどこで迎えるかを把握しやすくなります。
なお、この考え方は1年以上海外で暮らすことが前提です。
届出の日付だけを動かすことはおすすめできません。
論点② 所得税:183日ではなく「1年以上の予定」で決まる
「海外に183日以上いれば日本の税金はかからない」という話を聞くことがありますが、日本の国内法による居住者判定には、183日という基準はありません。
183日という数字は、租税条約の「短期滞在者免税」の要件として使われるものです。
日本では、国内に住所(生活の本拠)があるか、引き続き1年以上居所があるかで判定されます。
国税庁は、国外での在留期間があらかじめ1年未満とわかっている場合を除き、海外勤務の人は原則として非居住者と推定されると説明しています。
給与以外に所得がなければ、海外勤務の給与に日本の所得税は通常かかりません。
- 1年以上の予定で海外転勤する会社員:
会社が出国日までに年末調整をする - 会社を辞めて現地採用で移る人:
年末調整の対象になるのか、自分で申告が必要なのかを確認する - 確定申告が必要で、納税管理人を届け出ずに出国する人:
出国までに「準確定申告」(出国前に行う確定申告)をする
私は役所と税務署に相談し、出国前に精算した記憶があります。
論点③ 国民年金:払い続けるか、止めるか
日本の厚生年金に入らないまま海外に転出する場合、国民年金は「海外任意加入で払い続ける」か「資格を喪失する」かを選べます。
任意加入できるのは、日本国籍があり海外に住む20歳以上65歳未満の人などです。
資格を喪失した場合、転出以降の保険料をすでに納めていれば還付されます。
支払いを止めた期間も、年金を受け取る資格の判断には関係します。
任意加入しなかった海外居住期間(20歳以上60歳未満)は「合算対象期間」として扱われます。
これは、年金を受け取るために必要な期間(10年)には数えられるものの、年金額には反映されない期間のことです。
私は出国後も口座振替で払い続けていました。
それを続けるかどうかは、帰国の予定や現地の社会保険の有無によって考え方が分かれます。
迷った場合は、「ねんきんネット」で自分の納付記録を確認したうえで、年金事務所に相談すると判断しやすくなります。
論点④ 健康保険:一時帰国の受診のために残す場合の負担
住民票を残す理由として、現地で会った日本人から何度も聞いたのが「一時帰国のときに日本の病院に行きたいから」というものでした。
ただ、江戸川区は、住民票を残したままの場合は海外にいる間も国民健康保険料がかかると案内しています。
また、1年以上海外に滞在しているなど居住実態が海外にある場合は、海外で受けた治療費の一部を払い戻す「海外療養費」の対象外と案内している自治体もあります(例:羽曳野市)。
私の場合、中国では現地の病院で対応できる範囲だったので、日本の医療は使いませんでした。
日本の保険料を払い続けるのか、会社の医療保険や民間の海外旅行保険で備えるのか、年間の金額を比べてから決めることをおすすめします。
現地採用の場合は、オファーレターに医療保険の記載があるかも確認しておきたいところです。
海外転出届のデメリットと、残したままにする場合の注意点

海外転出届を出すデメリットとしてよく挙げられるのは、「銀行や携帯電話の契約が不便になる」「帰国時の手続きに手間がかかる」といった点です。
私も帰国して住民票を戻すときは、本籍地が遠かったため、戸籍謄本の取り寄せに時間がかかりました。
一方で、住民票は実際に住んでいる場所を登録する制度です。
船橋市は、住所の異動がないのに住民票だけを移すことはできないと明記し、虚偽の届出には刑法157条が適用される可能性があるとしています。
一時帰国中の通院のために短期間だけ住民票を戻すことは、認められていない点に注意が必要です。
不便さの一部は改善されています。
2024年5月27日からは、国外転出予定日の前日までに手続きをすれば、マイナンバーカードを海外でも継続して使えるようになりました。
銀行や証券口座の扱いは金融機関ごとに異なるため、出国前に確認しておくと安心です。
あなたはどのケース? 3つのパターン
転出届を出す前提で、出国日を年末にできないか検討してみてください。国民年金を任意加入にするかも、出国前に決めておきます。
日本に残る家族の住民票や国保は、家族自身の手続きとして続きます。固定資産税は1月1日時点の所有者に課税され、出国後も納める必要があります。仙台市は、出国が決まってから10日以内に納税管理人を設定するよう案内しています。所得税の判定も事情によって変わる可能性があるため、税務署に相談すると安心。
原則として転出届の対象外です。出国期間が1年未満の場合は、住民税が課税される場合もあります。予定が延びて1年以上になったときや、反対に試用期間で契約が終わって早く帰国することになったときは、その時点で市区町村に相談しましょう。
出国前と帰国後の3つのチェックリスト

退職の申し出時期を就業規則で確認し、出国日を年末にできるか逆算する ・国民年金を任意加入にするか決める ・住民税と所得税の精算方法(予納、納税管理人、準確定申告)を確認する
海外転出届を出す(目黒区の例では出国予定日の14日前から受付) ・マイナンバーカードの継続利用の手続きをする ・国民健康保険の脱退手続きをする
帰国して住民票を戻す(転入届)とき、本籍地以外では戸籍謄本と戸籍の附票の写しを求める自治体がある ・2024年3月から戸籍謄本は本籍地以外の窓口でも取得できるようになった。ただし、請求できるのは本人・配偶者・父母・子などで、窓口での請求に限られ(郵送・代理は不可)、戸籍の附票は対象外
海外にいる間に父が亡くなったときは、日本に住所がないことで手続きに苦労しました。
一般的な情報として、海外転出届を出すと日本の印鑑証明書は取れなくなります。
相続などで印鑑証明書を求められた場合は、在外公館(大使館・総領事館)で発行される「署名証明」で代えられる手続きがあります(法務省・外務省)。
親が元気なうちに知っておきたい制度です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 住民票を残したまま海外で働けますか?
A:おおむね1年以上海外に住む予定なら、海外転出届を出すことが求められています。残したままにすると、国民健康保険料などの負担が続く場合があります。
Q2. 住民票を抜かないと違法になりますか?
A:住民基本台帳法では、正当な理由なく転出などの届出をしない場合、5万円以下の過料の対象になり得るとされています(千葉市の案内より)。不安な場合は、お住まいの市区町村に相談してください。
Q3. 1月1日に海外に住んでいたら、住民税はどうなりますか?
A:日本に住所がない状態で1月1日を迎え、1年以上国外に住む場合は、その年度の住民税は原則として課税されません。ただし、出国した年の1月1日に住所があった分(前の年の所得分)は納める必要があります。
Q4. 海外に183日以上いれば、日本の税金はかかりませんか?
A:日本の居住者判定に183日の基準はなく、住所と「1年以上の予定」で判定されます。183日は租税条約の短期滞在者免税の要件です。
Q5. 一時帰国のとき、住民票を戻して病院に行けますか?
A:日本に住んでいないのに住民票を戻すことは認められていません。転入届は、帰国して日本で暮らすときに出すものです。
Q6. 住民票を抜いたら、マイナンバーカードは使えなくなりますか?
A:2024年5月27日からは、国外転出予定日の前日までに手続きをすれば、継続して使えるようになりました。

まとめ|住民票は「いつ抜くか」から考える

住民票は、抜くか残すかで迷いがちですが、1年以上海外に住むなら「いつ抜くか」を考える方が実際の判断に役立ちます。
1月1日をどこで迎えるかで住民税が変わり、出国の時期で所得税の精算方法も変わります。
入社日を相談する段階から、この点を頭に入れておくと準備が進めやすくなります。
- 出国予定日と次の1月1日の関係をカレンダーに書き出す
- ねんきんネットで納付記録を確認し、任意加入にするか決める
- 住んでいる市区町村のホームページで「国外転出」のページを読み、不明点を窓口に問い合わせる
参考にした公的情報(2026年10月11日確認)
本記事の制度に関する説明は、次の公的機関の情報をもとにしています。
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